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第2章 お互いに成長をもたらす他人との接し方
『おせっかいの報酬は自己満足』

藤原美津子: ご著書『幸せを呼ぶ「おせっかい」のススメ』には、席を譲るという話が登場します。

 

高橋恵様: 「どうぞ」と言う瞬間に自分が立つ。そのぐらいしないと、相手に隙を与えてしまいます。そうなると、相手も申し訳ないからと断るでしょ。思ったらすぐ立ち上がる。だから、報酬は自己満足なのです。

 

藤原美津子: 毎朝、朝日の撮影もされていますね。撮影された朝日をメルマガやFacebookで拝見しています。

 

高橋恵様: 私は、人が喜んで、笑顔になってくれることが嬉しいのです。朝日からはパワーをもらえます。このパワーを皆に分かち合いたいという気持ちで、撮影しています。

 

藤原美津子: 普段とは違う朝日が入ってきたという話も聞きました。

 

高橋恵様: 強烈な光でした。あとから知ったことですが、ちょうどその前に、知人のI君が亡くなっていたのです。交通事故で。

 

TEDという番組にも出るほど活躍している人でした。私に対しても「僕を息子にしてください!」と言ってくれていて。

 

先日、尾鷲までお墓参りに行きました。追悼の意味も込めて、お父さんにはその光の写真を渡しています。それがご縁で、尾鷲の市長から呼ばれ、講演もしました。

 

彼とのメールはまだ残っています。「『おせっかいのお母さん』を事業の中に広げていきましょうね!」という内容です。私は、何かあったとき、そのメールに一方的に返信しています。

 

藤原美津子: お掃除活動もされていますよね。ただ、体調が悪い日もあれば、寝不足の日もあるし、天気が悪い日や寒い日もあると思います。

 

それでも、高橋さんが中心で輝いているからこそ、皆が集まってくる。その中心にあり続ける姿勢が素晴らしいですね。

 

高橋恵様: 遠くから来る人もいます。葛西の方からも、横浜の方からも。なかには茨城や姫路、アフリカから来ている人もいます。 

 

藤原美津子: たった一回しか体験しないで、二度と来ない人もいると思います。主催者側からすれば、寂しい気持ちもあるのでしょうか?

 

高橋恵様: この前、皆で集まってスナップ写真を撮っていたら、「なんだ、パフォーマンスか」と言われました。そのとき、とても寂しい思いをしましたね。でも一方で「いつもご苦労様」と言ってくれる人もいる。この違いは、日頃の積み重ねだと思います。

 

藤原美津子:私は、たとえ一回しか参加しなかったとしても、一緒に掃除をした体験というのは、一生の宝物になると思います。すぐに芽が出なくても、その種を蒔いていることが素晴らしいと思います。

 

高橋恵様: だから、色んなところで始めてほしいと思っています。いまでは、皆でこのオレンジ色の服を着ていると、探して来てくれる人もいます。

 

色んな人がここに出入りして、変わっていく。それはとても嬉しいことです。学生さんには、美津子さんの本のツバメの話もします。二十歳になるまでは、親から預かっている子供だと思っていて。二十歳を過ぎたら返してあげなくては、と。

 

そのとき、南の島まで渡りきる力を付けてあげなければいけない。だから今いる学生たちが、誕生日に何くれと言うと、「誕生日は、親に感謝する日に変えて欲しい」と、みんなに言っています。

 

対談

名刺の裏には1枚1枚違うメッセージが書かれています

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『自分の力で飛ぶことの大切さ』

藤原美津子: 当会では、誕生日は親に「ありがとうございます」と言う日であると伝えています。また、これからどう生きるか、自分は何のためにこの世に生まれてきたのかを、見つめ直す日だとも言っています。

 

誕生日を「天命」という言い方に変え、天から与えられた寿命と、天から命じられた使命の両方を考える日にしています。

 

人間誰しも、あと何年生きられるのかはわかりません。大げさに言えば、明日、交通事故で死んでしまうかもしれません。

 

だからこそ、一日一日が本当にありがたい。大事に積み重ねていった人と、ただ漫然と過ごすというのは、違うと思うのです。 

 

高橋恵様: 本当にそうですね。

藤原美津子: 折角なので、海を渡るツバメ(『すこやかに育って』藤原美津子 著より)の話をさせてください。

 

私が小さい時、軒先によくツバメが来ていました。毎年、巣を作るのです。あるとき母がこう言いました。「みっちゃん、こ のツバメはどこから来ているのかわかる? 遠い遠い、南の島から来ているの。そして、生まれたばかりの雛も、秋になると海を越えて南の島に帰っていくの よ」。 

 

私は、小さな雛が大きな海を全部飛び越えると聞いて驚きました。さらに母はこう続けました。「ひとたび海を渡り始めたら 休むところはないのよ。だから母鳥は、子供を一生懸命励ますの。島が見えるまで頑張れって。でもね、どんなに辛くても、雛鳥を背中に乗せて飛ぶことはできないの」。

 

自分の身体と同じくらいの大きさになった雛鳥を、自分の背に乗せて飛ぶことは絶対出来ない。まして、これだけ大きな海を渡りきることなど、絶対出来ないのだ。

 

その話を聞いた時、自分の力で飛ばなければならないと痛感しました。 

 

高橋恵様: 本当にそのとおりだと思います。今の子供たちは、大人になっても、親の背中に乗ってしまっていますよね。

 

藤原美津子: 高橋さんの活動は、そういった自分の力で飛ぶことの大切さを伝えていると思います。かつてはどこの家庭でも、子供にそうしていたように。

 

子供を育てるときに大事なのは、無条件の愛情もそうですが、いざというときにその子が自分の力で人生を飛んでいく力を身につけさせることです。それが最大の愛情だと思います。

 

高橋恵様: 私もそう思います。私の家庭では、姉がとても勉強ができた反面、私は出来なかった。母を助けることばかり考え、勉強するよりも、内職の仕事を取ってきていたからです。

 

姉は勉強で一番を取って母を喜ばせ、私は私なりの方法で母を喜ばせる。その結果、「あなたにはあなたの良いところがある」と言われたとき、救われたような気がしました。

 

あんなに怖くて、いかにも憎々しげ私をいじめていたお祖母ちゃんが、最期は「当時はすまないことしましたね」と言っていた。本当は、ずっとそう思っていたのだと思います。

 

いじめる相手も苦しいのです。そして、そういった思いをあの世にまでは持っていけない。

 

そう気づいたとき、人を恨んではいけないと思いました。これまでいろいろな苦労をしましたけれど、その経験はすべて「感謝」という二文字に変換されています。

 

藤原美津子: いじめていた側も、実は苦しかったという事実は、誰かに対して恨みが消えない人からすると、救いになりますね。

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『心の貯金が人間性を育むきっかけになる』

高橋恵様: 若い人は、お金儲けのために働きます。でも、成功した人が、七十歳、八十歳、九十歳になっても、まだ、お金のことばかり考えていると、醜い顔になってしまいます。「取られてしまうのではないか」と。

 

人間は、限られた命しかありません。どんなに成功していても、充足感がなかったら、本当の成功とは言えないでしょう。一万円のお寿司を毎日ひとりで食べているよりも、五百円のラーメンでもいいから二十人呼んでみんなに食べさせるほうが、よっぽど素晴らしい。 

人生は、お金や物で決まるのではない。もっと大事なものがあるということを、若いうちから気付かせてあげなければと思います。 

 

藤原美津子: そうですね。たとえすぐに返ってこなくても、見返りを求めないことですね。

 

高橋恵様: 宇宙の銀行に、心の貯金をしているのです。それは「ここぞ」という絶妙なタイミングで降りていきます。まだ降りてこないというのは、実が熟してないからなのです。

 

母が本当に苦しいとき、私の甥っ子たちが東京の大学に来ると、その大学生が友達を連れてくるのです。それでも、苦しいながらも、ご飯を食べさせていました。その学生が、今は成功して、九州で大きな植物の会社をしています。

 

どれだけお世話になったかわかりません。孫を連れて九州に行ったときも、「今日はホテルしか取れないけど、明日からは大分にある別荘に止まりなさい」と、車付きで貸してくださったのです。「あなたのお母さんにはお世話になったからな」と言って。

 

だから、直接その人に見返りがなくても、その向こうの子であり、孫であり、ひ孫がお世話になっている。それと私の友達なども。そういうことなのです。

 

その人に返すのでなくても、それをまた、他の人にしてあげればいいのです。その恩を他の人にすることによって、自分も気持ちがいいし、相手が笑顔になることを考えて行えば、それが楽しみになります。

 

藤原美津子: 主人が勤めていたとき、上司の人が、近衛の第一大隊長をされていた人でした。その人から、神道のことや生き方について教わったそうです。昭和天皇から直接お電話があるほどの方だったそうなのですが、その人から言われたのは、次のことです。

 

「君は僕に恩義を感じてくれているらしいけれども、その恩を僕に返そうとはしてくれるな。有り難いと思ったら、君の後から来る沢山の人に、同じようにしてやってくれ。そうすれば、何十倍にもなるのだから、そうやって生かしてほしい」と。

 

日本人は、そうやって、次から次へと伝えてきたのかもしれませんね。

 

高橋恵様: 本当にそうですね。だから私もよく昔の話をします。娘や社員からすると、「なんでいまさら貧乏な頃の話をするのだろう」「自分たちは華やかなところに来たのに、なんでわざわざ昔の話を」と思っているかもしれません。

 

でも、どんなに小さな会社でも、丁稚奉公から行っているはずです。だから私は、貧乏の話も、食べられなかった頃の話もするのです。十三円のコッペパンが十二円しかなくて買えなかったとか。

 

そういった経験を経て、私も会社もあるのです。

 

見返りを求めないこと。返してくれないと嘆くぐらいならしなければいい。人に物をあげたりするときは、見返りを一切考えない。常に相手の気持ちに立って考えてあげること。そう考えるだけでも気分が違います。

 

私も一人ではじめて、よくやったと思います。でもそれは、積み重ねたからできたのです。営業の種類に関わらず、物があっても、保険みたいに物がなくても、結局のところ人間次第なのです。

 

相手にどれだけ熱意が通じるか。うちにもセールスマンは来ますが、「欲しいのだけどこの人からは買いたくない」という場合もあれば、「商品はあまり欲しくはないけどいい人だから買ってあげたい」ということもあります。

藤原美津子: やっぱり人ですよね。

 

高橋恵様: そう。だから、人を通してビジネスを考えるのは大事なのです。見知らぬ人の優しさに触れた時、荒んだ心に温かい風が吹いてくる。自分が営業するときも、相手をそういう思いにさせること。

 

昔、ふと思いついた言葉に、「見知らぬセールスマンに見せる素顔こそ、その人なり」というものがあります。いかにも押売 りが来たという顔をして「いらない」という人もいれば、「お疲れさま」と言ってくれる人もいますよね。どういう態度を示すかで、その人が見えてしまうので す。

 

そのように考え、仕事をしてきました。飛び込み営業をしていても、靴が綺麗に並んでいるか、乱雑になっているか。どんなにおしゃれでも、冷たい印象の奥さんという場合もあります。飛び込み営業は、そういうのが全部見えるので、勉強だと思っていました。

 

どこの会社でも、大事なのは営業です。人に接する営業の先端を行く人は、少なからず、人の気持ちがわかる訓練をたくさんしています。だからこそ、自分の“らしさ”を出せるのだと思います。

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