第二十話 お中元の季節に寄せて 真心を送るということ
お中元や、お歳暮の時に一番困るのは、相手の好みが分からないときです。折角なので、予算の範囲で、相手の方が喜んで下さる品をお送りしたいと思って、ずいぶん頭を悩ませたりしましたが、あるときに考えが変わりました。 こちらが相手の方のことを心底思って、お送りすれば、それを相手の方は、受け取って下さるのではないかと。 それは、自分自身の体験からです。実は、私達家族は、肉類を一切食べません。 でもお中元の時に、『高級和牛』が送られてくることもありますし、『こだわりのハム』を送って頂く時もあります。 残念ながら、食べられないので、いつもお世話になっている方や、お手伝いをして下さる方に「よろしかったら・・」と差し上げました。すると「えっ?こんなに高級な物を頂いていいんですか」と驚くほど喜ばれ、ハムなどは、「息子のお弁当に、本当に重宝しました。」と満面の笑顔で喜んで頂けるのです。 それを見て、「自分達は食べないから気がつかなかったけれど、こんなに喜んで頂ける人がいるのだ」と正直驚きました。 そして送ってくれた人は、さぞかしこちらが喜ぶと思って、たくさんの品の中から選んで下さったに違いないと心からありがたいと思いました。 直接自分の口に入らなくても、相手の方の思いが、通じる瞬間というのでしょうか。それが通じれば、お中元などをお送りした価値はあるはずですので、必ずしも相手の方の好みに合わなかったとしても、そこはあまりこだわらなくても良いのではないかと思うようになりました。 もちろん相手の方の状況や好みを知っていれば、それに合わせて喜んで頂ける品物をお送り出来ますし、それが出来れば、一番よいと思います。 そんな時には、手紙を添えてお送りしています。たとえば、お仕事などでご多忙な方が、奥様をご病気で亡くされ、そんな中で日々頑張っておられる方には、 「ご多忙な時、もしお疲れの時などに、すぐに召し上がって頂けたらと、有機のお米で作ったおかゆをお送りさせて頂きました。 この夏は、猛暑との予報も出ています。どうかお身体をお大切に。ご活躍の程 心よりお祈りしております」 すぐにご返事を頂きました。 「妻が、亡くなり、一人で気丈に生きています。すぐに食べられるおかゆは、本当にありがたいです。心よりの感謝を込めて」 もしかしたら、その方はパン食の方で、普段はご飯は食べないという方かもしれません。でも、相手の方を思う心は、伝わったのではと思いませんか。 お中元等、贈り物の価値は、それで良いのだと思います。どんなに心を尽くしても、その時に相手が望んでいる品を差し上げたり、満たすことは難しいからです。でも相手を思うその心が伝われば、それで役割は果たしたと言えるのではないでしょうか。 お中元、お歳暮は、ともすれば、「しなければならない」と義務的になりがちですが、そんな中でも、出来るだけ相手を思う心を添えてお送りする。 「お世話になった、感謝」それを「心ばかりの品」に添えて送る、そんな心が美しい日本のしきたりとしての、お中元やお歳暮の原点なのではないかと思うのです。