第十二話 おもてなしの心
「おもてなし」と言う言葉には、 日本人にとってどこか心地よい響きがあります。 「もてなす」の丁寧語といわれますが、 その意味するところ、根底にあることは何でしょうか。 まずは「単なる接待」と「おもてなし」の違いですが、 その差は「心から相手を迎え入れる」思いが あるかどうかということ。 会社などで、仕事として接待を しなければならない時もありますが、 心がまったく伴わない儀礼的な接待は、 形だけ整えた「おもてなしもどき」です。 「おもてなし」は、はじめに形ありきではなく、 相手を心から迎えるまごころありきで、 その上で、「どんなご馳走を出すか」 「どんな趣向で相手に喜んで貰うか」などを 考えたらよいのではないでしょうか。 「おもてなし」として 「相手を心から迎え入れる」の根底には、 日本に昔から伝わるしきたりがあります。 それは年毎に歳神様をお迎えし、 季節ごとに季節の神様を迎えてきたことなどです。 暮れには、門松を飾って歳神様をお迎えし、 おせちなどをお供えして、おもてなしをする。 そしてその後、自分達家族で頂くのですが、 心を込めてお供え(おもてなし)をしたところに 神様は「福」を入れてくれるのですね。 またお盆の時には、迎え火を焚き、 仏壇を飾ったり花などを供えて、 先祖をお迎えするという習慣がありました。 お盆に、茄子などで、 馬や牛に見立てた飾りを作るのは、 「おいでになる時には、馬に乗って 少しでも早くお越し下さい。 帰る時には、牛に乗って、 ゆっくりとお帰り下さい」という意味が あったそうです。 少しでも長く御先祖様に、 いて頂きたいという心をそうした形で表したのでしょう。 神様も仏様も共に目に見えない存在ですが、 こうしたしきたりを通じて、 「おもてなし」の心が自然に継承されてきたのでは ないでしょうか。